マイクロ法人の決算は自分でできるか|税理士なしの流れと費用・リスク

#決算#法人税申告

結論から書きます。取引がシンプルなマイクロ法人であれば、税理士に依頼せず自分で決算・法人税申告を行うことは制度上可能です。ただし、会計ソフトだけでは完結せず、法人税申告書を作るための「申告ソフト」が別途必要になる点、そして誤りのリスクと時間コストを自分で引き受ける点は、始める前に理解しておく必要があります。

この記事では、ひとり法人を経営する当サイト運営者が、国税庁等の公開情報をもとに、全体の流れ・必要なツール・税理士費用との比較・リスクを順に整理します。マイクロ法人そのものの説明は「マイクロ法人とは」にまとめているので、前提から知りたい方はそちらからどうぞ。

なお、税制に関する記述は執筆時点(2026年7月)の一般的な制度の説明です。個別の税務判断はケースによって異なるため、実際の申告にあたっては国税庁等の一次情報の確認や、必要に応じて税理士への相談をおすすめします。

法人決算の全体像: 5つのステップ

法人の決算・申告は、大きく次の5ステップに分かれます。

1. 帳簿を締める

事業年度中のすべての取引を会計ソフトに記帳し、決算日時点の残高を確定させます。預金残高と帳簿残高の一致確認、売掛金・未払金の計上、減価償却費の計上などが主な作業です。日頃から記帳をためていなければ、マイクロ法人の取引量なら作業自体は限定的です。

2. 決算書を作成する

帳簿が締まれば、貸借対照表・損益計算書などの決算書(計算書類)を作成します。ここまでは一般的なクラウド会計ソフトの機能範囲で、ソフトが自動で集計してくれます。

3. 法人税申告書(別表)を作成する

法人税の確定申告では、決算書とは別に「別表」と呼ばれる一連の申告書類を作成します。別表一(税額計算)、別表四(所得の計算)、別表五(一)・五(二)(利益積立金や租税公課の管理)などが代表的で、ここが個人の確定申告と大きく違う部分です。多くの会計ソフトはこの別表作成に対応しておらず、後述する申告ソフトが必要になります。

4. 地方税の申告書を作成する

法人税とは別に、都道府県・市町村へ法人住民税と法人事業税の申告が必要です(東京23区内のみに事務所がある場合は都税事務所への申告に一本化されます)。法人住民税には「均等割」があり、資本金1,000万円以下・従業員50人以下の法人では標準税率で年7万円です。均等割は赤字でも原則として課税されるため、マイクロ法人でも毎年発生する固定コストと考えておく必要があります。

5. 申告・納付する

法人税・地方税ともに、申告と納付の期限は原則として事業年度終了日の翌日から2か月以内です。3月決算なら5月末が期限です。申告期限の延長の特例もありますが、延長しても納付期限は延びないとされているため、実務上は「決算から2か月」が基本線になります。e-Tax(国税)とeLTAX(地方税)を使えば電子申告が可能で、納付もダイレクト納付等の電子的な方法が選べます。

初年度に見落としやすいのが、電子申告のための事前準備です。e-Taxの利用には利用者識別番号の取得、eLTAXの利用には利用者IDの取得が必要で、法人が電子申告する場合は電子署名のための電子証明書(商業登記電子証明書など)の準備も求められます。これらは申告書を書き始めてから慌てて用意するものではなく、決算期より前に済ませておける手続きなので、期限直前の作業を減らす意味でも早めの取得をおすすめします。

会計ソフトと申告ソフトの切り分け

自分で決算をやる場合に最初につまずきやすいのが、「会計ソフトを契約すれば申告まで終わる」という誤解です。役割分担は次のようになっています。

執筆時点(2026年7月)で、個人が使いやすい法人税申告ソフトとしては「全力法人税」や「freee申告」などがあります。全力法人税はクラウド型で、基本機能は無料で申告書を作成でき、すべての帳票の出力など一部機能が有料という料金体系です。freee申告はfreee会計の利用者向けの有料サービスで、会計データから申告書作成までを同じ環境で進められる構成になっています。会計ソフト側の選び方は「会計ソフト比較」で詳しく書いているので、あわせて参考にしてください。

組み合わせ方の典型は2つあります。ひとつは、任意の会計ソフトで決算書まで作り、その数値を全力法人税などの申告ソフトに取り込んで別表を作る構成。もうひとつは、freee会計とfreee申告のように、同一ベンダーのサービスで記帳から申告までを一気通貫にする構成です。前者はソフトの選択肢が広い一方で数値の転記・取り込みの確認が必要になり、後者はデータ連携が滑らかな一方で特定のサービスに依存する、というトレードオフがあります。

税理士に依頼した場合の費用と比較する

自分でやるかどうかは、税理士費用と比べて判断するのが現実的です。執筆時点(2026年7月)の一般的な相場観としては、次のような水準が目安とされています。

一方、自分でやる場合の金銭コストは、会計ソフトの利用料と申告ソフトの利用料(無料〜数万円程度)に収まります。単純な金額比較なら、年間で十数万円以上の差が出る計算です。

ただし、この差額は「自分の作業時間と誤りのリスクを引き受ける対価」です。浮いた金額を時給換算して、決算作業に費やす時間と比べてみると、人によって結論は変わります。

自分でやることのリスクも正直に書きます

自分での申告を勧める記事は多いですが、リスクの説明が薄いものも目立ちます。実際には次の点を織り込んでおくべきです。

別表作成で特につまずきやすいと一般に言われるのは、法人税・法人住民税が損金にならない(申告書上で加算調整が必要になる)という税金の取り扱い、別表五(二)での租税公課の記載、赤字を翌期以降に繰り越す場合の別表七(欠損金の繰越)あたりです。申告ソフトはこれらの多くを自動処理しますが、どの数字がどこから来ているかを理解しないまま出力だけ信じるのは危険、というのが実務上の一般的な注意点です。

だからこそ明記しておきますが、事業規模や取引の複雑さによっては税理士への依頼が合理的です。売上規模が大きい、取引先や取引類型が多い、消費税の申告が絡む、インボイスや固定資産の論点があるといった場合は、自分でやることによる節約額よりも、誤りのリスクと時間コストのほうが大きくなりやすいと考えられます。

まとめ: 「自分でやる」が向いているのはこんな法人

最後に整理します。自分での決算・申告が現実的なのは、おおむね次の条件がそろっている場合です。

逆に、ひとつでも大きく外れる条件があるなら、決算のみのスポット依頼から検討するのが無難です。条件がそろっている法人にとっては現実的な選択肢ですが、すべての法人に当てはまる話ではありません。

なお、2年目以降は負担が下がる構造的な理由があります。別表五(一)の期首残高は前期の期末残高を引き継ぐため、前年の申告書控えがあれば多くの欄は転記と更新で済むからです。この意味でも、初年度の申告書を正確に作り、控えを確実に保存しておくことが重要です。法人の帳簿書類には原則7年(繰越欠損金がある事業年度は10年)の保存義務があり、申告書の控えは融資審査などで提示を求められる場面もあります。

制度の詳細は変わる可能性があるため、実際に申告する際は、その時点の国税庁・自治体の情報を必ず確認してください。