ひとり社長の年末調整のやり方|自分ひとり分を12月の給与で終わらせる手順【令和8年分】
本記事は国税庁の公表情報(2026年10月29日確認)を調査してまとめたものです。運営者個人の体験談ではありません。税額や控除の適用は個々の状況で異なり、制度・様式は年分ごとに変わります。実際の手続きでは国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」等の最新情報を確認し、判断に迷う場合は税務署または税理士に相談してください。
年末調整の解説記事のほとんどは、従業員を雇う会社の経理担当者向けか、申告書を書いて会社に出す側の従業員向けです。役員1名のひとり法人は、その両方を自分ひとりでやります。会社として自分に申告書を書かせ、会社として自分の所得税を精算するという構図が分かれば、作業自体は1〜2時間で終わる規模です。
この記事では、役員1名・毎月定額の役員報酬・従業員なしというひとり法人の典型ケースに絞って、11月の書類準備から翌1月の提出物までを順に整理します。年間の手続き全体の中での位置づけはひとり法人の年間手続きカレンダーを参照してください。
そもそも: ひとり社長にも年末調整は必要か
必要です。年末調整は「従業員がいる会社の話」と誤解されやすいのですが、対象は給与の支払いを受ける人で、役員報酬も税法上は給与所得です。「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を会社(=自分の法人)に提出している人は、原則として年末調整の対象になります。
ひとり法人の場合、次の整理になります。
- 会社(給与の支払者)としての自分: 年末調整を実施し、源泉徴収票を作り、税務署・市区町村に提出物を出す義務がある
- 個人(給与の受給者)としての自分: 申告書を会社(=自分)に提出する
逆に、年末調整の対象にならない主なケースは次のとおりです。
- その年の給与収入が2,000万円を超える(確定申告が必要)
- 扶養控除等申告書を提出していない(乙欄で源泉徴収されている)
また、「年末調整をしたら確定申告は不要」とは限りません。医療費控除・ふるさと納税(ワンストップ特例を使わない場合)・副業の所得など、年末調整で処理できない項目がある人は確定申告をします。ひとり法人と個人事業を併用しているマイクロ法人の場合、個人事業の所得があるなら確定申告は必要で、年末調整は「給与分の精算」という位置づけになります。
源泉徴収税額が毎月0円でも、やることはある
役員報酬を月8万円前後に抑えているマイクロ法人では、扶養控除等申告書を出していれば毎月の源泉徴収税額が0円、というケースが珍しくありません。この場合「精算する税額がない」ので年末調整の計算自体はほぼ空振りですが、源泉徴収票の作成、給与支払報告書の市区町村への提出、法定調書合計表の税務署への提出は必要です。「税額0円だから何もしなくていい」とはならない点に注意してください。
令和8年分の変更点: 基礎控除・給与所得控除が変わる
令和8年分(2026年分)の年末調整には、令和8年度税制改正による所得税の基礎控除・給与所得控除の見直しが反映されます。改正規定は令和8年12月1日に施行され、令和8年分の所得税から適用されます。つまり2026年12月に行う年末調整は、新しい控除額で計算します。
ひとり社長に関係が大きい点を挙げると:
- 基礎控除: 合計所得金額の階層ごとに金額が変わる方式が続き、合計所得金額132万円以下の階層では令和8年分の基礎控除は104万円とされています(時限的な上乗せを含む)。役員報酬を低く抑えているマイクロ法人の多くはこの階層に入ります。中間の所得帯は段階的に金額が異なるため、自分の所得帯の金額は国税庁タックスアンサー(No.1199 基礎控除)で確認してください
- 給与所得控除: 最低保障額が引き上げられます
- 扶養親族等の所得要件: 扶養の判定に使う所得要件も改正されています。配偶者や親族を扶養に入れている場合は、昨年までの感覚で判定せず今年の基準で確認してください
この改正により、申告書の様式や記載欄も前年から変わっています。昨年の控え(あるいはネット上の古い記入例)をそのまま写すのが一番危険な年なので、様式は国税庁の「令和8年分」のものを使ってください。
全体の流れ: 11月に書いて、12月の給与で精算し、1月に提出する
| 時期 | やること | 提出先 |
|---|---|---|
| 11月 | 申告書(最大3枚)を記入 | 会社で保存(提出はしない) |
| 12月 | その年最後の役員報酬の支払いで年税額を精算 | (社内処理) |
| 12月〜1月 | 源泉徴収票を作成 | 本人交付(+条件により税務署) |
| 翌1月10日(納期の特例なら1月20日) | 源泉所得税の納付 | 税務署 |
| 翌1月31日 | 給与支払報告書の提出 | 市区町村 |
| 翌1月31日 | 法定調書合計表の提出 | 税務署 |
令和8年分については、翌1月31日(2027年1月31日)が日曜日にあたるため、給与支払報告書・法定調書合計表の提出期限は実務上**2027年2月1日(月)**になります(期限が土日祝の場合は翌開庁日扱い)。最新の期限は提出先の案内で確認してください。
ステップ1: 11月に申告書を書く(最大3枚)
年末調整の計算の前提になる申告書です。どれも税務署に出す書類ではなく、会社(=自分の法人)が保存する書類です。保存期間は提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間とされています。
①給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
毎月の源泉徴収で甲欄を適用するための基本の1枚です。実務では年末調整のタイミングで**「翌年分」を書く**(翌年1月以後の給与に間に合わせる)運用が一般的で、当年分に異動(結婚・扶養の増減など)があればあわせて反映します。独身・扶養なしのひとり社長なら、氏名・住所・個人番号など上段を書くだけでほぼ完成です。
②基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書
名前は長いですが1枚の統合様式です。ひとり社長が実際に書くのは多くの場合基礎控除申告書の部分だけです。自分の年間の給与収入(役員報酬の年額)から所得を計算し、該当する基礎控除額を記入します。前述のとおり令和8年分は金額が変わっているので、様式に印字された区分表に従って書けば大きく外しません。
配偶者控除等・特定親族特別控除(19〜23歳の親族がいる場合の控除)・所得金額調整控除は、該当する家族構成の場合のみ記入します。
③給与所得者の保険料控除申告書
生命保険料・地震保険料・iDeCoの掛金(小規模企業共済等掛金控除)などが個人としてある場合に書きます。10月〜11月に保険会社から届く控除証明書を添付します。何もなければこの1枚は不要です。
なお、ここで控除できるのは役員個人が契約・負担している保険です。法人契約で法人が保険料を払っているものは個人の保険料控除の対象ではありません(それは法人の経費側の論点です)。
ステップ2: 12月の給与で年税額を精算する
その年最後の役員報酬を支払うタイミングで、次の計算をします。
- 1年間の給与総額(役員報酬の年額)から給与所得控除後の金額を出す
- そこから基礎控除・保険料控除など所得控除を引いて課税所得を出す
- 税額表(年末調整用)で年税額を計算する(復興特別所得税を含む)
- 毎月源泉徴収してきた税額の合計と比較し、差額を12月の給与で還付または追加徴収する
毎月定額の役員報酬で源泉徴収も毎月同額なら、差額はわずかか、ゼロになることが多い構図です。月々の源泉徴収税額が0円だった場合は、年税額も0円なら精算額なしで計算だけ残す形になります。
手計算も可能な規模ですが、給与計算ソフトを使っていれば申告書の内容を入力するだけで精算まで自動計算されます。会計ソフトと給与計算を同じベンダーで揃えておくと明細の連携が楽になるので、これから整える場合は会計ソフト比較もあわせて検討してください。
ステップ3: 源泉徴収票と翌1月の提出物
年末調整が終わったら、結果を書類にして配る工程が残っています。ひとり法人で実際に必要なのは次の3つです。
源泉徴収票(本人交付+条件により税務署)
給与支払報告書と同じ内容の個人票です。本人への交付は全員分必要(自分に自分の分を交付する形)です。税務署への提出は、役員の場合その年の給与等の支払金額が150万円を超える場合などの基準があり、低報酬のマイクロ法人では税務署提出が不要になるケースもあります(本人交付と市区町村への給与支払報告書は金額に関係なく必要です)。
給与支払報告書(市区町村・翌1月31日)
金額にかかわらず提出が必要で、これをもとに翌年度の住民税が計算されます。提出先は役員の1月1日時点の住所地の市区町村です。eLTAXで電子提出でき、eLTAXの使い方で整理した利用者IDがあればオンラインで完結します。紙の場合は市区町村へ郵送します。
法定調書合計表(税務署・翌1月31日)
正式には「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」。1年間に支払った給与・報酬などの合計を税務署に報告する表です。支払額が少なくても、給与を支払っている以上は提出対象です。e-Tax・郵送・窓口のいずれでも提出できます。
源泉所得税の納付(翌1月10日または1月20日)
年末調整の精算後の源泉所得税は、原則翌月10日まで、納期の特例(給与の支給人員が常時10人未満の場合に申請できる半年まとめ納付)を使っている場合は7〜12月分を翌年1月20日までに納付します。ひとり法人は納期の特例を使っていることが多いはずです。税額が0円でも、所得税徴収高計算書(納付書)を「税額0円」で税務署に提出するのが原則運用です。
ひとり社長がつまずきやすいポイント
「自分に適用される基礎控除額」を昨年の記憶で書く
令和7年分・令和8年分と2年連続で控除額が動いています。様式の区分表どおりに書けば済む話ですが、古い記入例をなぞると間違えます。
給与支払報告書の出し忘れ
税務署まわり(納付・法定調書)は意識していても、市区町村への給与支払報告書を忘れるケースです。出し忘れると住民税の計算に反映されず、後から市区町村に確認される流れになります。
法人の決算と混同する
年末調整は個人の所得税(暦年・1〜12月)の精算で、法人税の決算(事業年度ベース)とは別の手続きです。12月決算の法人だと時期が重なるため混同しやすいのですが、書類も提出先も別物です。法人側の申告は全力法人税の使い方で整理しています。
「会社と自分」の2役を1枚の書類の中で混同する
申告書の「給与の支払者」欄には法人名・法人番号を、「あなた」の欄には個人の氏名・個人番号を書きます。同じ人間でも役割が違う欄です。地味ですが、ここの書き分けが年末調整の構図そのものです。
まとめ
- 役員1名でも、役員報酬を払っていれば年末調整は必要。源泉税が毎月0円でも、源泉徴収票・給与支払報告書・法定調書合計表は作る
- 令和8年分は基礎控除・給与所得控除の改正が12月1日施行で反映される。様式は必ず「令和8年分」を使い、古い記入例を写さない
- 流れは「11月に申告書(最大3枚)→12月の給与で精算→翌1月に納付と提出物」。独身・扶養なし・定額報酬なら実作業は1〜2時間の規模
- 給与支払報告書はeLTAX、法定調書合計表はe-Taxで電子提出できる。GビズID・eLTAXのIDを既に持っているなら追加の準備はほぼ不要
出典(2026年10月29日確認): 国税庁 年末調整がよくわかるページ / タックスアンサー No.2662 年末調整のしかた / No.1199 基礎控除。期限・様式・控除額は必ず最新の公式情報で確認してください。